GO Termに関する基礎
TL;DR
GOに関連する解析は次世代シーケンサーやマイクロアレイの解析において、よく使われる解析手法です。解析の意味を正確に理解するには、まずGOそのものに関する理解が必要になります。ここでは、GO Termの基本についてまとめていきます。
GO Termとは
The Gene Ontology (GO)は、Gene Ontology Consortiumによって管理されている、遺伝子産物の機能を体系的に記述するための標準化されたアノテーション体系です。GO Termは人間の専門家によるキュレーションに基づいて定義されており、PFAMやKEGGなどの計算的手法に基づくデータベースと比べて主観性が入りやすいという指摘もあります。
しかし、生物学的な知見を体系的に構造化したアノテーションとしてGO Termは非常に広く利用されており、多くのContributorによるキュレーションにより信頼性は高くなっています。現在では、150,000を超える論文の実験データをもとにアノテーションがつけられており、実験的な裏付けのあるアノテーションは700,000を超えます(参考)。タンパク質の機能推定やパスウェイ解析など、多くのバイオインフォマティクスの解析でGO Termが正解データとして利用されています。
また、人によるキュレーションという性質上、GO Termそのものが更新されることも多いため、解析の際にはできるだけ最新のGO Termのリストを使うことが推奨されます。GO Consortiumは定期的にリリースを行っており、公式サイトのダウンロードページから最新版を取得できます。
File format
GO Termのオントロジー定義は主に以下の形式で提供されています。
- OBO format: GO専用のテキストベースの形式で、人間にも読みやすい構造になっています。各GO Termのid、名前、定義、関係性などがプレーンテキストで記述されています。goatoolsの
obo_parserなどを使用するとパースできます。 - OWL (Web Ontology Language): W3C標準のオントロジー記述言語で、より厳密な論理的表現が可能です。OWLAPIやowlreadyなどのライブラリで扱えます。
- JSON形式: 後述するsubsetなどが提供されています。プログラムから扱いやすい形式です。
また、遺伝子産物へのアノテーション情報はGAF (Gene Association File) 形式やGPAD (Gene Product Association Data) 形式で提供されています。GAFはタブ区切りのテキストファイルで、遺伝子産物とGO Termの対応関係、Evidence Code、参考文献などが記録されています。
Subset
GO Termには生物種や特定の用途に応じたSubset(スリムオントロジー)が用意されています。例えば、GO Slimは上位の代表的なGO Termだけを集めたもので、大まかな機能分類の概要を把握するのに有用です。
生物種固有のSubsetも提供されており、例えば動物は光合成をしないため、植物固有のGO Termを除外した動物用のSubsetを使うことで、より適切な解析が可能になります。代表的なSubsetにはgoslim_generic、goslim_plant、goslim_yeastなどがあります。
GO Termの中身
基本要素
1つのGO Termは以下の要素を基本に構成されます。
| Name | Description | Example |
|---|---|---|
| Gene Product | アノテーションされている遺伝子産物 | UniProtKB (rat Dhfr) |
| GO Term | IDと名前 (説明) | GO:0004146 (dihydrofolate reductase activity) |
| Reference | アノテーションの根拠を示す論文 | |
| Evidence Code | アノテーションの根拠の種類を示すコード(実験、系統解析など) | Inferred from Experiment (EXP) |
Evidence Code
各GO AnnotationにはEvidence Codeが付与されており、アノテーションの根拠がどのような種類のものかを示します。Evidence Codeは大きく以下のカテゴリに分類されます(参考)。
| カテゴリ | 代表的なコード | 説明 |
|---|---|---|
| Experimental | EXP, IDA, IPI, IMP, IGI, IEP, HTP, HDA, HMP, HGI, HEP | 実験的手法に基づくアノテーション。最も信頼性が高い。 |
| Phylogenetic | IBA, IBD, IKR, IRD | 系統解析に基づくアノテーション。 |
| Computational | ISS, ISO, ISA, ISM, IGC, RCA | 配列類似性や計算的手法に基づくアノテーション。 |
| Author Statement | TAS, NAS | 著者の記述に基づくアノテーション。 |
| Curator Statement | IC, ND | キュレーターの判断に基づくアノテーション。NDは「データなし」を意味する。 |
| Electronic | IEA | 自動的な電子的アノテーション。最も数が多いが、人手による検証はされていない。 |
GO解析を行う際には、Evidence Codeによるフィルタリングが重要です。例えば、IEA(電子的推論)を除外して実験的根拠のあるアノテーションのみを使用する場合があります。
Extensions
基本要素以外にも、いくつかのアノテーションの拡張が行われています。拡張アノテーションは以下の2つに大別されます(Huntley & Lovering 2017)。
- 遺伝子や遺伝子産物、複合体、化学物質などの関係性を示すMolecular relationships
- 細胞種や解剖学、発達段階などとの関係性を示すContextual relationships
Molecular relationships
| Name | Description | Example |
|---|---|---|
| has_regulation_target | 制御対象となる遺伝子産物を示す | has_regulation_target (UniProtKB zinc finger protein GLI1) |
| has_input | 反応やプロセスの入力となる分子を示す | has_input (PomBase.0 pcf2) |
| has_direct_input | 直接的に作用する基質やリガンドなどの分子を示す | has_direct_input (UniProtKB Solute carrier family 26 member 9) |
Contextual relationships
| Name | Description | Example |
|---|---|---|
| part_of | 特定の細胞や組織の一部であることを示す | part_of (WBbt:0006804 body wall muscle cell) |
| occurs_in | プロセスが起こる場所(細胞種など)を示す | occurs_in (CL:0000740 retinal ganglion cell) |
| happens_during | プロセスが起こるタイミングや条件を示す | happens_during (GO:0071470 cellular response to osmotic stress) |
GO Annotationの構造
GO Annotation全体はノードとしてGO Termを、エッジとして下で定義されるRelationを持つ有向非巡回グラフ(DAG)で表されており、階層構造を持ちます。階層構造の上に行くほど、広い意味をもつアノテーションになります。
階層構造における関係性を表すRelationは以下の通りです(参考)。
| Name | Description |
|---|---|
| is a | 基本構造です。A is a Bと示すとき、AはBのサブタイプです。 |
| part of | より強い制約です。B is part of Aでは、Bが存在するとき、それは必ずAの一部であり、Aの存在が約束されます。Extensionのpart ofはノード情報ですが、このpart ofはエッジ情報です。 |
| has part | A has part Bのとき、BはAの一部です。Aが存在するとき、Bは存在する必要がありますが、Bが存在していても必ずしもAが存在する必要がありません。 |
| regulates | 制御関係を表します。例えば、他のパスウェイからの影響などがあります。positively_regulates(正の制御)とnegatively_regulates(負の制御)のサブタイプがあります。 |
以下は、Biological Processにおけるアポトーシス(プログラム細胞死)関連のGO Termを例に、DAGの構造と各Relationを図示したものです。
この図から、GO TermのDAG構造における重要な特徴が読み取れます。
- is_a: 階層構造の基本です。
apoptotic processはprogrammed cell deathのサブタイプであり、さらにそれはcell deathのサブタイプです。上位に行くほど広い概念になります。 - part_of:
release of cytochrome c from mitochondriaはintrinsic apoptotic signaling pathwayの一部として起こるプロセスです。 - regulates:
regulation of apoptotic processはapoptotic processを制御する関係にあります。negative regulation of apoptotic processはその中でも負の制御(抑制)を表します。
GO Termの一番上の階層として、以下の3つが割り当てられています。解析ツールなどでは、このノードを最上流ノードとして扱うことが多いです。
| 略称 | 意味 | |
|---|---|---|
| Biological Process | BP | 遺伝子産物が関与する生物学的なプロセスやパスウェイ(例: シグナル伝達、代謝、細胞分裂など) |
| Molecular Function | MF | 遺伝子産物の分子レベルでの機能・活性(例: 酵素活性、受容体活性、転写因子活性など) |
| Cellular Component | CC | 遺伝子産物が活動する細胞内の場所や構造体(例: 核、ミトコンドリア、細胞膜など) |
Reference
- The Gene Ontology resource
- Guide to GO evidence codes
- Introduction to GO annotations
- Relations in the Gene Ontology
- GO Subset Guide
- Download the ontology
- Huntley R.P., Lovering R.C. (2017) Annotation Extensions. In: Dessimoz C., Škunca N. (eds) The Gene Ontology Handbook. Methods in Molecular Biology, vol 1446. Humana Press, New York, NY. https://doi.org/10.1007/978-1-4939-3743-1_17